脳卒中後に生じる手の麻痺に対して推奨されているリハビリとは?
脳卒中は、脳の血管が詰まってしまったり、破れて出血してしまったりすることにより、その先の脳細胞に酸素や栄養が行き届かなくなり、脳の細胞が壊れて死んでしまう病気のことを指します。大きく分けると、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3つに分類されており、皆さんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
ここでは、脳卒中後に生じる手の麻痺に対して推奨されているリハビリについて説明します。
脳卒中による死亡率
脳卒中は、かつて日本人の死因で最も多い病気と言われていました。しかし、近年は、救急車等による救急搬送の発展や救急医療の充実、治療法の進歩により、脳卒中で亡くなる患者さんは飛躍的に減少しました。その結果、2022年に行われた厚生労働省の調査によると、現在は4位とされており、脳卒中を発症しても命が助かる確率は以前よりも向上したといわれています。
脳卒中による後遺症
前述の通り、救急医療や治療法の進歩により脳卒中による死亡率は飛躍的に減少しましたが、脳卒中は発症すると多くの後遺症を残す病気です。代表的な後遺症に、身体の片半身の運動麻痺や集中ができない、記憶が曖昧になるといった高次脳機能障害などが挙げられます。したがって、脳卒中を発症した患者さんの多くは後遺症に悩んでおられます。事実、脳卒中は寝たきりの原因となる病気の第2位とされており、脳卒中発症後のリハビリは重要であるとされています。では、どんなリハビリを行ったらよいのでしょうか。
根拠に基づいたリハビリ
近年、根拠に基づいたリハビリが重要視されています。ここでいう、「根拠に基づいた」とはどういったことなのでしょうか。例えば、皆さんがなんらかの病気を患った際、病院で診察を受け、薬を処方されると思います。その処方された薬は、治験や臨床試験を行った結果、病気の症状を緩和させるという「根拠」が明らかになったものが多いです。
リハビリも同様で近年、様々なリハビリの手法について、多くの臨床研究が実施されています。特に脳卒中後の後遺症に関する臨床研究は、他の分野に比べても非常に多いといわれています。したがって、研究によって得られた「根拠」に基づき、脳卒中に生じる後遺症に対して、効果的である確率が高いリハビリを、患者さんの嗜好を加味しながら相談しつつ、行うことが重要だと考えられています。
エビデンスに基づいたリハビリはどの程度行われているのか?
Hirayamaらは、脳卒中後に生じる後遺症の一つである片手に生じる運動麻痺に対して、根拠に基づくリハビリが急性期・回復期リハビリ病棟において、どの程度実施されているのかについて調査を行なっています。彼らは、片手に生じる運動麻痺の程度を重症、中等度、軽症にわけて調査を行なっています。この調査では、米国心臓/脳卒中学会が2016年に作成したガイドラインにおいて推奨度の高いリハビリ(Constraint-induced movement therapy[CI療法]、課題指向型練習、電気刺激療法、メンタルプラクティス[運動イメージトレーニング])がどの程度使われているかについて筆者が照らし合わせたところ、重症例 44.9%、中等度例 48.3%、軽症例 69.3%でした(図1)。この結果から、一般の臨床場面においては、まだまだ根拠に基づくリハビリの普及が十分進んでいない可能性が明らかになりました。
Selbst-Dにおけるリハビリについて
現在Selbst-Dでは、脳卒中後に片手に生じる運動麻痺に対するリハビリを、回復期リハビリ病棟を退院された方に提供しています。実施に際して、臨床研究の結果、世界的に効果が高いと考えられている根拠に基づいたリハビリを患者さんと相談しながら、実施します。
施設内で実施しているリハビリの一例としては、上記に示した2016年に米国心臓/脳卒中学会が作成したガイドラインにて推奨されている、Constraint-induced movement therapy(CI療法)の要素や課題指向型練習、電気刺激、メンタルプラクティス(運動イメージトレーニング)、ロボット等を用いたリハビリが挙げられます。
これらのアプローチを使いながら、対象者さんが麻痺した手を使い、生活の中でどのような活動を成し遂げたいかを伺った上で、その達成を目標にリハビリを行なっていきます。
Selbest-Dは、このようなリハビリを行い、対象者さんの自己実現を支援することも目的にしています。
執筆
竹林 崇(たけばやし たかし)
大阪公立大学医学部リハビリテーション学科作業療法学専攻教授
大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科教授
X(旧 Twitter):@takshi_77
参考
- 厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況
- 厚生労働省「令和4年(2022)厚生労働省の国民生活基礎調査」
- Hirayama, Koichiro, Takashi Takebayashi, and Kayoko Takahashi. "Factors Influencing Decision‐Making for Poststroke Paretic Upper Limb Treatment: A Survey of Japanese Physical and Occupational Therapists." Occupational Therapy International 2024.1 (2024): 1854449.
- Winstein, Carolee J., et al. "Guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery: a guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association." Stroke 47.6 (2016): e98-e169.