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コラム

日本における脳卒中後の手のリハビリの進化 −歴史から見る最新の方法とは−

最近は、エビデンス(evidence/根拠)という言葉を耳にする機会が増えてきました。医学におけるエビデンス(evidence)とは、診断や治療、予防、リハビリなどの行為が、臨床研究や試験等によって科学的に正当化される根拠のことを指します。つまり、医療の意思決定を行う際に、「この治療や介入は本当に有効で安全なのか?」を判断するための客観的なデータや研究結果のことです。
現在、日本においては、エビデンスに基づいたリハビリが推し進められています。ただし、前回のコラムでも示したように、全ての施設でこのエビデンスが確保された最新のアプローチを導入できているわけではありません。
本コラムでは、日本における脳卒中後の手のリハビリの進化の歴史に触れ、現状どのようなアプローチが使用されているかについて、解説していきます。

第二次世界大戦前後のリハビリの歴史

1945年以前の第二次世界大戦前に遡ると、脳卒中後のリハビリはほとんど確立されておらず、医療における助命後は、自宅での介護が中心でした。その上であん摩やマッサージ、鍼灸等が実施されていたと言われています。
戦後復興期に入ると、西洋医学の文化が大きく流れ込み、その影響を強く受けることになります。その中で1966年に日本理学療法士協会および日本作業療法士協会が設立され、近代的なリハビリの取り組みが構築され始めました。また、世界的に大きな広がりを見せていた徒手療法のひとつであるボバース法が日本の有志により導入され、脳卒中後の手のリハビリにおいても主とした方法として用いられ始めたのもこの時期です。

徒手療法が中心に行われてきた時期(1980年代)


徒手療法とは、治療者が手を使って患者の筋肉、関節、軟部組織(筋膜や腱など)に働きかける治療法の総称です。理学療法士や作業療法士、カイロプラクター、柔道整復師、マッサージ師などが実施し、主に疼痛の軽減や可動域の改善、筋緊張の調整、血流の促進を目的とします。
国内でボバース法が浸透した後、ボバースコンセプトを中心とした神経筋促通術と呼ばれる徒手療法が大きく発展し、日本の脳卒中後の上肢リハビリでも中心的な存在を担ってきました。
そういった流れの中で1990年代に入り、医学全般に「医療者の経験のみに依存せず、臨床研究の結果(エビデンス)を利用した実践である、エビデンスを基盤とした医療(Evidece-Based Practice [EBP])」が進められるようになりました。

エビデンスを基盤とした実践が導入されてきた時期

それと時を同じくして、臨床研究の結果を示しながら、発展するConstraint-induced movement therapy(CI療法)という手法が台頭してきました。この脳卒中後の手のリハビリ方法は、多くの臨床試験を実施し、従来のリハビリよりも患者さんの麻痺してしまった手の機能や、生活における手の使用を促せることを示しました。
これらの流れを受け、日本においても、2004年に脳卒中治療ガイドラインが出版されたこともあり、この約20年間の期間を経て、多くの医療機関や介護保険関連施設で使用されるようになりました。

CI療法に続く、様々なリハビリ方法の登場

世界中におけるCI療法の成功を背景に、臨床研究を通して様々なリハビリ手法が開発され、その効果が検証されています。また、これらは多くの臨床研究を通して、効果が出る確率が高ければ、世界各国の治療ガイドライン等に収載されます。具体的には、米国心臓/脳卒中学会が出版しているガイドラインの内容が参考になります。当該のガイドラインの中で推奨されているアプローチは、表1にまとめてあります。これらのリハビリ方法が現在、世界においても推奨されており、最新の方法として一般的に考えられています。


表1 米国心臓/脳卒中学会のガイドラインの推奨文

Selbst-Dにおけるリハビリについて

現在、Selbst-Dでは、脳卒中後に片手に生じる運動麻痺に対するリハビリを、回復期リハビリ病棟を退院された方に提供しています。施設内で実施しているリハビリの一例としては上記に示した通り、推奨されているConstraint-induced movement therapy(CI療法)の要素や課題指向型練習、電気刺激、メンタルプラクティス(運動イメージトレーニング)、ロボットを用いたリハビリを中心に提供しています。
これらのアプローチを使いながら、対象者さんが麻痺した手を使い、生活の中でどのような活動を成し遂げたいかを伺った上で、その達成を目標にリハビリを行なっていきます。
Selbest-Dは、このようなリハビリを行い、対象者さんの自己実現を支援することを目的にしています。

執筆

竹林 崇(たけばやし たかし)
大阪公立大学医学部リハビリテーション学科作業療法学専攻教授
大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科教授
X(旧 Twitter):@takshi_77

参考

Winstein, Carolee J., et al. "Guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery: a guideline for healthcare professionals from the American Heart Association/American Stroke Association." Stroke 47.6 (2016): e98-e169.


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